日食観測会の資料集 ~感動を共に~
理科教師として自然科学に触れる機会を作ることは意識的に行う必要があると思います。ほかにも星空観測会とか専門家を招いての授業とか、いろいろとチャレンジしてください。
学校単位でイベントを行う場合は職員会議等で事前に打ち合わせをする必要があります。そのための資料をまとめて添付しておきます。うまくアレンジして使ってみてください。本当に感動的でした。次は2032年か、、、54歳?やばいですね…
2012年5月21日の朝。九州南部から四国・近畿地方南部、東海・関東地方と特に人口の密集している地域で太陽がリング状に欠けて見える珍しい天文現象 金環食(金環日食)が観測されました。
前回日本で観測された金環日食は、今から24年前の1987年9月23日に沖縄で観測されましたが、神奈川で観測できるのは1839年江戸時代に観測されて以来、実に173年ぶり! 次回は2030年に北海道で観測できますが、次に日本全国で観測できるのは300年後!大半の人は生涯に一度の体験となりそうです。みなさん見ましたか?
金環日食観測会を企画した理由は多くの生徒にこの世紀の天文ショーである金環日食を楽しむだけではなく、自然現象の素晴らしさ、そしてこのような壮大な宇宙のドラマを通じて培われてきた人間の英知を感じとって欲しいと思ったからです。かつてガリレオがそうであったように、中学生も空を見上げ広大な宇宙の中の地球とその地球の上に生きる生命や人間の存在に思いを馳せて欲しいと思ったからです。
2009年には富士見中学校で観測会をしていたので、その要綱を
ベースにして計画をはじめました。主な内容は以下の通りです。
① 観測会の要綱の作成と主任・管理職との打ち合わせ
② 金環日食の情報収集と観測会の資料作成
③ 日食観測グラスの作成
④ 日食のDVD作成
⑤ 事前学習会の実施
① 要綱は後に掲載しますが、基本的には3年前の観測会のものをマイナーチェンジしました。他教科の学年
主任さんも関心を持っていたようで、後押しをしてくれました。管理職からは「観測会の際には生徒の安全
には十分の配慮を行ってくれればいいです。」とOKを頂き、観測会に向けて順調なスタートを切ることが
できました。その後、作成した保護者向けの文書や観測会の資料・日食グラスなどのチェックも随時行い、
本番に臨みました。
② 情報収集はASTRO GUIDE 星空年鑑2012とWeb検索で行いました。資料も掲載します。また、金環日食のシンポジウムへ
参加し、メーリングリストに入って情報収集に努めました。
③ 日食観測グラスは前回と同じ要領で作成しましたが、フィルターについては売り切れが予想されるため、早めに注文を済ませ、
全校生徒分作れるようにした。市販のものは500~1500円程でしたが、手作りのものであれば、一人50円未満での作成が可
能でした。使用フィルター バーダープラネタリウム社 アストロソーラーフィルム ND5
フィルターについては、ナリカさんから日食観察安全シートが手ごろな値段で発売されていました。こちらの方が強度もあり、加工の手間が省けたので良かったかもしれません・・・観測グラスのデザインはがんばってみました。金環日食は太陽と月と地球のモチーフ、金星の太陽名通過は月の代わりに金星をあしらってみました。春に卒業した3年生にも、進学先や通学の途中でも観察できるように全員分作成して配布しました。在校生については金環日食の説明とDVDを見せた後、簡単な工作で自作してもらいました。特に安全面の指導を繰り返し行い、誤った使用方法をしない旨を伝えました。
④ 付録のDVDやネットの動画を編集し、授業で使える動画(約20分)を作成しました。
⑤ 前週の金曜日の放課後に30分程度の観測講習会を行い、事前に金環日食のしくみや観測方法の説明をしました。100名を
超える希望者が殺到し、会場は超満員。50名限定の観測会でしたが、校長先生の許可がでて、希望者が全員参加できることに
なりました。会場は校長先生への感謝の拍手で沸き返りました。
3.観測会当日
観測会当日は、天気予報では「くもり」。何とyahoo天気予報のシュミレーションでも関東地方南部だけが雲と重なっていました。更新されても何も変わらず…前回と同じ雨だけは勘弁して欲しいけどなぁと半ばあきらめモード。学校に泊まり込むことはあきらめ、早朝に行くことにしました。眠りが浅かったのか、3時半に起床。とりあえず朝焼けを期待しながらの登校。途中のコンビニでバイトのおじさんに日食観測フィルターをプレゼントし、神様にちょっとだけ(おせっかい)アピール。
4時半に学校に到着後、ニュース・ネットで天気予報チェックを行うとちょっとだけ状況が好転。気を
よくした私は模造紙で巨大てるてる坊主を作成していました。すると突然「トントン」と扉をノックする
音。「げ、アラームが発報したかも・・・」とげんなりしていると、昨年の卒業生(横浜サイエンスフロ
ンティア高校に在学)があの日食グラスをもって登場。2カ月ぶりの再開に喜ぶ私でしたが、てるてる坊
主作成のアシスタントとしてこき使ってしまいました。
5時半に2人組の男子生徒が登校。3Fの理科室の窓からぶら下がる不気味なてるてる坊主を見ながら
ハイテンションに雨乞いならぬ、晴れ乞いのダンスを踊っていました。日食は人を不思議な行動に駆り立
てるとはいいますが、指導することもせず、放置。望遠鏡に太陽投影板をつけ、ipadのアプリで方位と時
間を確認し、セッティングを完了しました。このアプリは当日の見え方やGPSを使ったシュミレーショ
ンなどが秀逸で、後ほど大活躍をすることになります。
6:19 日食の始まり(第1接触)でしたが、なんと雲に隠れて何も見えず…TVでの確認となりました。6時半を過ぎると雲の切れ間からたまに太陽が顔を出すという状態になり、多分あの辺に太陽があるんだなとipad確認するも、何とも盛り上がりの欠ける日食観測会。
7時には生徒も登校が始まり、現在の状況と今後の予定を説明、校庭での観察を順次開始しました。金環日食までの30分間・雲
の切れ間からうっすらと姿を現す太陽と月。雲の影からは部分日食のシルエットが透けて見えます。前回と同じようにフィルター
いらずの状態でしたが、雲がうすくなると強い光が差し込み、フィルターなしでは目が焼けてしまいそうでした。そんな一進一退
を繰り返しながら刻一刻と時は流れていきました。
7時半近くになっても雲の切れ間から見えたり、見えなかったり。ipadの画面を空と重ねながら「今、あの辺に隠れているはず」、「あと100秒」と言い聞かせながら、誰もが固唾を飲みながら東の空を見ていました。その光景はまるでミーアキャットのようでした。
そしていよいよ第二接触、金環食の始まりです。「太陽の熱で雲がとけてる~!」???という生徒のつぶやきがあったのですが、何と太陽の前にあった雲がだんだんと薄くなってきています。Ipadのタイマーもあと○秒と表示。それを見た生徒達が願いを込めて「10・9・8・7・6・5」とカウントダウン開始。会場は異様な熱気に包まれ、「3・2・1」の歓声に続くように、雲のカーテンが消え、黄金のリングが空に輝きだしました。
リングから出る強い光の帯が我々を照らしだし、あわてて日食グラスをかけ直す私達。あまりの美しさに息をのむ人・大興奮で声なならない声を出す人・感動で涙を流している人、初めてみる金環日食の美しさは想像以上でした。31分から37分の約6分間の奇跡の天体ショー。34分の最大食・37分の第三接触とその都度、雲が明け、黄金のリングを見ることができました。
ちらちらと太陽が顔を出すたびに一斉にあがる歓声。欠けた太陽を見た瞬間は、教師も生徒も関係なく皆、感動していました。「マジすげ~」「本当に見られたよ!」「太陽がリングになってた!」「マジ、感動した」と生徒たち。今回、観測したほとんどすべての生徒にとって、生涯初の経験になったことと思います。きっと大人になってもこのときの太陽の姿は忘れないと思います。この経験を心に刻み、自然の素晴らしさと偉大さを体感し、さらなる自然の探究を目指してくれることを願っています。